KING OF BAGGERS 徹底解析
勝った方が、遅くされる
アメリカのバガーレース、キング オブ ザ バガーズ。歴代の王座を並べてみると、奇妙なことに気づきます。一度も、同じブランドに留まっていないのです。なぜそうなるのか、公式の規則と技術公示を突き合わせて調べてみました。

王座は、一度も同じブランドに留まっていない
まず事実から。インディアン モーターサイクルの公式サイトは、自社のキング オブ ザ バガーズ制覇を2020年・2022年・2024年の3回と数えています。2024年のトロイ・ハーフォスの戴冠を「3度目のタイトル」と表記しているので、公式の数え方では2020年が1回目です。
残る3年はハーレーダビッドソンです。並べるとこうなります。2020年タイラー・オハラ(インディアン)、2021年カイル・ワイマン(ハーレーダビッドソン)、2022年タイラー・オハラ(インディアン)、2023年ヘイデン・ギリム(ハーレーダビッドソン)、2024年トロイ・ハーフォス(インディアン)、2025年カイル・ワイマン(ハーレーダビッドソン)。
インディアン3回、ハーレー3回。連覇が、一度もありません。
ひとつ補足しておくと、2020年だけは他の年と少し性格が違います。ラグナセカで8周のレースが1回だけ行われた回で、複数ラウンドの選手権として組まれたのは2021年からです。ただメーカーも媒体も2020年を含めて数えているので、この記事もそれに従います。そしてこの初戦でインディアンのオハラを追って2位に入ったのが、バンス&ハインズのハーレーダビッドソンに乗るヘイデン・ギリムでした。いまインディアン側で王座を争っている、あのギリムです。
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そして2026年、インディアンが首位を走っています。8月のミドオハイオを終えた時点で、ギリムが206ポイント、同じチームのハーフォスが183ポイント、3位はハーレーのブラッドリー・スミスで152ポイント。順番どおりなら、今年はインディアンの年です。
3勝3敗は普通。珍しいのは順番
ここで先に断っておきたいことがあります。3勝3敗という星勘定そのものは、まったく珍しくありません。
6年の勝敗の組み合わせは2の6乗で64通りあり、そのうち3勝3敗になる並びは20通り。31パーセントです。3回に1回は起きます。
珍しいのは、順番だけです。インディアンが3連勝してからハーレーが3連勝する形でも3勝3敗ですが、それなら誰も不思議に思わなかったはずです。
偶然なら、32回に1回
では、一度も連覇がない完全な交互になる確率はどれくらいか。
64通りのうち、完全な交互は「インディアンから始まる並び」と「ハーレーから始まる並び」の2通りだけです。両者の力が互角で、各年の結果が互いに影響しないと仮定すれば、確率は64分の2 ―― 32回に1回になります。
2020年を除き、複数ラウンドの選手権として行われた5年(2021年から2025年)だけで計算しても、32分の2で16回に1回です。どちらの数え方をしても、低い確率だという結論は変わりません。
もし2026年もインディアンが取れば、7年連続の交互。確率は128分の2で、64回に1回まで下がります。
この数字が「両者互角・各年独立」という仮定の上に成り立っていることは、書き添えておきます。仮定を置かなければ確率は計算できません。
規則に、そう書いてある
なぜこうなるのか。モトアメリカのキング オブ ザ バガーズ規定を読むと、答えらしきものが書かれていました。2.7.3項「各種マシン構想の均衡」です。
In order to equalize the performance of motorcycles used in the King of the Baggers Championship, a system of performance enhancements or restrictions can be developed (such as minimum weight, air restrictor or REV limit may be applied according to their respective racing performances). The decision to apply a balancing system to a motorcycle will be taken by the MotoAmerica Permanent Bureau based on decisions made by the Superbike Commission at any time deemed necessary to ensure fair competition.
訳すとこうです。選手権で使用されるマシンの性能を均等にするため、最低重量、エアリストリクター、エンジンの回転数の上限(レブリミット)といった性能の増減を、それぞれのレース成績に応じて適用しうる。適用の決定はモトアメリカ常設事務局が、スーパーバイク委員会の決定に基づき、公正な競争を確保するために必要と認められるときいつでも行う。
レース成績に応じて、いつでも。つまりシーズン中でも動かせると、規則自体が宣言しています。
調整の道具は3つある
条文に挙げられている手段は3つです。最低重量、エアリストリクター(吸気の絞り)、エンジンの回転数の上限(レブリミット)。
この3つのうち、実際に使われた記録が残っているものを追ってみました。
2022年7月 ―― 適格モデルが広がった
1件目は2022年7月12日付の技術公示07-2022「KOTB Model Eligibility」です。シーズン真っ只中の発行です。
The American Motorcyclist Association and MotoAmerica are modifying the regulations to clarify section 2.7.1 to include all models of the FL as follows.
ここから排気量の話が出てきます。キュービックインチはアメリカで使われる排気量の単位で、1キュービックインチが約16.4ccです。日本の感覚に直しながら読んでいただくために、以下はccを併記します。
ハーレーダビッドソンのFLツーリング全モデルを対象に含める、という改定でした。同時に排気量の条項も書き換えられ、ミルウォーキーエイトの水冷・空冷プッシュロッドを131.8キュービックインチ(約2,160cc)まで、さらにS&SやJim’sの空冷プッシュロッド ツインカムエンジンもMSO付きで同じ131.8キュービックインチまで使用可となっています。
数字だけ並べても分かりにくいので、ここで基本を押さえておきます。
ハーレーダビッドソン ロードグライドの市販車に載っているエンジンは、ミルウォーキーエイト117。1,923ccです。ところがレースで使われるのはスクリーミンイーグルの131クレートエンジンで、2,147cc。市販車より224cc大きい、純正アクセサリーの大排気量エンジンです。
クレートエンジンというのは、木箱(crate)に入った状態で売られる完成品のエンジンのことです。いま載っているエンジンを分解して改造するのではなく、エンジンを丸ごと買って積み替える。スクリーミンイーグルはハーレーダビッドソンの純正アクセサリーのブランドで、この131にも部品番号が付いていて、販売店から注文できるカタログ商品です。レース用の特別なワンオフエンジンではありません。
一方インディアンは、レースマシンも市販のチャレンジャーと同じパワープラス112、1,834ccのままです。排気量の上乗せがありません。
つまりレースの場では、ハーレー2,147ccに対してインディアン1,834cc。313ccの差がついています。エンジンの特性が違うので単純な力比べにはなりませんが、排気量という一点だけを見れば、ハーレーのほうが有利です。
誤解のないように書いておきます。インディアンもエンジンには手を入れています。レースマシンはバンス&ハインズが手を加えたパワープラスで、どこをどう変えているかはインディアンもバンス&ハインズも公表していません。この選手権の規則は、フレームとフェアリングの外観を市販車のままに縛る一方で、エンジンの中身には広い改造を認めています。両社ともエンジンは作り込んでいる。違うのは、そこに排気量を足せるかどうかです。ハーレーは131という大きなエンジンに積み替えられる。インディアンは112のまま、中身を煮詰めるしかありません。
この年の王者は、インディアンでした。
2024年3月 ―― ハーレー専用のオイルパン
2件目は2024年3月28日付の公示05-5000-24「KOTB Harley-Davidson Oil Pan」。こちらはもっと具体的です。
MotoAmerica and AMA have granted official approval for the utilization of a modified oil pan specifically designed for Harley-Davidson motorcycles competing in the King of the Bagger class. With immediate effect, competitors are authorized to incorporate the approved oil pan into their bikes for competition purposes.
キング オブ ザ バガーズに参戦するハーレーダビッドソン専用に設計された改造オイルパンの使用を、モトアメリカとAMAが公式に承認した。即時発効 ―― という内容です。
理由も書かれています。クラス内のチームが経験していたオイルの吸い上げの問題を解決し、あらゆる条件下で安定した油圧を確保するため。義務ではなく、使いたければ使ってよいという扱いです。
公示には部品番号と価格まで載っています。レーシング用オイルパン一式が995ドル、純正のオイルパン一式が223ドル63セント、そのほかバッフルプレートとオイルリターンチャンネル。発注先として書かれているのは、ハーレーダビッドソンのレーシングディレクター、ジェイソン・ケールのメールアドレスです。
この年の王者も、インディアンでした。
2026年4月30日 ―― 200回転
3件目が今年です。技術公示02-5000-26「KOTB RPM Limit」、規則2.7.4項の改定。
Effective immediately, the MotoAmerica King of the Bagger RPM limits have been updated as follows:
2.7.4 Rev Limits — a. Maximum rpm limits
Harley-Davidson – 7200 Maximum rpm limit
Indian Challenger – 7700 Maximum rpm limit
ハーレーのエンジン回転数の上限が7,000rpmから7,200rpmへ、200回転引き上げられました。即日発効です。
ここは正確に読む必要があります。インディアンのエンジン回転数の上限は7,700rpmのまま、一切変更されていません。良くなったのはハーレー側の条件だけで、インディアン側には何ひとつ手が付けられていない。
結果として、インディアンが持っていた700回転の差が500回転に縮まりました。ただし縮まっただけで、逆転はしていません。
ここで回転数だけを見て判断すると、読み間違えます。上限はいまでもインディアンのほうが500回転高いので、この一点だけならインディアンが有利に見えます。ですが先に見たとおり、排気量ではハーレーが2,147cc、インディアンが1,834ccで、313ccの差が初年度の規則から付いたままです。回転数でインディアンが上、排気量でハーレーが上 ―― この2つを組み合わせて釣り合いを取る、という設計になっています。
そのうえで、どちら側の数値が変えられてきたのかを見てください。回転数の差は、ハーレー側を7,000から7,200へ上げることで縮められました。排気量の枠も、規則の上ではハーレー側だけが131キュービックインチから131.8、131.95へと少しずつ上がっています。インディアン側の数値は、排気量も回転数も一度も変更されていません。
変更されたのは常にハーレー側の数値で、変わった方向はすべて、ハーレーにとっての規則が緩くなる方向でした。
モトアメリカによれば、複数のラウンドとダンロップの公式タイヤテストで最高速度に偏りが見られたことが理由とされています。ハーレーダビッドソンのレーシングディレクター、ジェイソン・ケール ―― 2024年のオイルパン公示で発注先として名前が出ていた人物です ―― も、設計の異なる2台の競争バランスを保つ取り組みを支持するという声明を出しました。
この公示が出た4月30日の時点で、インディアンは開幕から一度も負けていませんでした。
赤字で印字された「7200」
公示のPDFを開いて気づいたことがあります。
2行並んだ数字のうち、ハーレーの「7200」だけが赤い文字で印字されているのです。インディアンの「7700」は黒。変更した箇所を色で示す、役所の文書によくある作法です。
つまりモトアメリカ自身が、この改定で変わったのはハーレーの数字だけだと、文書のデザインで明示しています。

変更の翌年に、ハーレーが勝っている
3件の公示を年表に置き直すと、もうひとつの規則性が見えてきます。
2022年7月に適格モデルが広がった年、王座はインディアンでした。しかし翌2023年、ハーレーのギリムが王者になります。
2024年3月にオイルパンが承認された年も、王座はインディアンでした。しかし翌2025年、ハーレーのワイマンが王者になります。
技術的な措置が結果に出るまでには、開発と煮詰めの時間が要ります。1シーズン遅れて効いてくると考えれば、この並びは自然です。
さらに遡ると、最初の規則書も同じ形をしていました。2020年10月にインディアンが単発の初戦を勝った、その直後です。最初のキング オブ ザ バガーズ規則書は2020年12月8日付で作られています。空冷プッシュロッド131キュービックインチ(約2,147cc)、水冷112キュービックインチ(約1,834cc)という線引きを含んだ、あの規則書です。
翌2021年、初代王者になったのはハーレーのワイマンでした。
2026年4月30日の200回転が同じように効くのなら、結果が出るのは2027年ということになります。
排気量は、最初から差がついていた
回転数の話をすると、必ず出てくる疑問があります。そもそもなぜ、回転数の上限に差があるのか。
エンジンの構造が違うからです。ハーレーのレースマシンはプッシュロッドで動弁するV型2気筒、インディアンのパワープラスは水冷でオーバーヘッドカム、1気筒あたり4バルブ。高い回転を使える構造とそうでない構造を同じ土俵に乗せるために、回転数の上限を別々に定めている ―― これがモトアメリカの説明です。
ただ、規則をさかのぼって読むと、もっと大きな差が最初から存在していました。排気量です。
2021年版の規定2.7.2項「エンジン構成と排気量」には、こう書かれています。
Harley-Davidson Motorcycles: a. Originally equipped air-cooled pushrod V-Twin engines, maximum displacement of 131ci. normally aspirated.
Indian Motorcycles: i. Originally equipped water-cooled V-Twin Engine, maximum displacement of 112ci. normally aspirated.
空冷プッシュロッドは131キュービックインチ(約2,147cc)まで。水冷は112キュービックインチ(約1,834cc)まで。銘柄ごとではなく、冷却方式と動弁方式ごとに排気量の上限が分けられているのです。
チャレンジャーは水冷なので、実質112キュービックインチ(約1,834cc)に固定されます。ハーレーのレースマシンはスクリーミンイーグルのミルウォーキーエイト131クレートエンジンをベースにした空冷プッシュロッドなので、131キュービックインチ(約2,147cc)側です。
cc換算すると、先に見た2,147ccと1,834cc。313ccの差。ハーレーのほうが17%大きい。これが初年度の規則から存在していました。
そしてインディアンは、一度も動いていない
この排気量上限がその後どう変わったかも追いました。
ハーレー側は2021年に131キュービックインチ(約2,147cc)、2022年7月の公示で131.8キュービックインチ(約2,160cc)、2024年版では131.95キュービックインチ(約2,162cc)。少しずつ上がっています。
インディアンの水冷エンジンの上限は、2021年から2024年まで112キュービックインチ(約1,834cc)のまま、一度も変わっていません。
車重は、全車共通
公平を期すために書いておくと、最低重量には銘柄差がありません。
2021年版は「All machines 288 kg (635 lbs.)」、2025年版は「All machines 281.23 kg (620 lbs.)」。全車共通で、4年のあいだに約7キロ軽くなっています。どちらか一方を重くするという使い方は、少なくとも規則本体ではされていませんでした。
条文の管理は厳格です。イベント中いかなる時も下回ってはならない、許容差は一切なし、レース終了時の状態で計量し、流体を含めて何も追加してはならない、と書かれています。
調べ方と、調べきれなかったこと
ここまでの内容は、モトアメリカが公開している技術規則と技術公示のPDFを読んで確認したものです。同時に、分からなかったことも書いておきます。
公開されている技術公示は全54件あり、そのすべてを確認しました。そのうちキング オブ ザ バガーズの性能調整に関わるものは、現時点で02-5000-26の1件だけです。モトアメリカは当年度分の公示しか掲載していないようで、2022年と2024年の公示はウェブアーカイブから見つけました。
その結果、2023年と2025年のシーズン中の調整は、あったのかどうかすら確認できていません。公示が残っていないだけなのか、そもそも無かったのか、判断がつきません。
技術規則の本体も、2021年版・2022年版・2024年版・2025年版は入手できましたが、2023年版と2026年版は公開URLが見つかりませんでした。2024年版については3月15日版と7月8日版の2種類が存在したので中身を比べましたが、バガーの回転数・最低重量・排気量の3項目はどちらも同一で、年内の変更はありませんでした。
つまり「インディアンに有利な変更が何回、ハーレーに有利な変更が何回」という集計は、現時点ではできません。確認できた3件がすべてハーレー側への措置だった、という事実までです。
同じことが、前にもあった

この構図には、既視感があります。
フラットトラックのFTR750です。135戦101勝という数字を残したあのマシンも、勝ち続けるうちに規則が少しずつ変わっていきました。締め出されたわけではないのに、いつのまにか同じ土俵ではなくなっていた。その話は別のコラムに書きました。
舞台がフラットトラックからバガーに移っただけで、起きていることは同じように見えます。
それでも、勝っている
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最後に、断定を避けておきたいことがあります。
確率も公示も、「だからハーレーが有利だ」と証明するものではありません。強いライダーが毎年ブランドを移れば、規則が一切変わらなくても王座は行き来します。実際、ギリムは2023年にハーレーで王者になった後インディアンへ移り、ハーフォスも移籍しています。マシンだけでなく、人が動いているのです。
私たちが確認できた2026年の事実は、これだけです。排気量で313cc、17%の差を付けられている側が、相手に200回転の上乗せが認められた直後に、ハーレーダビッドソンの本拠地ウィスコンシンで両レースを制し、バガークラスのラップレコードまで更新した。
言えるのは、ここまでです。偶然にこうなる確率は、低い。
出典:モトアメリカ 技術規則(2021年版/2022年版/2024年版3月15日・7月8日/2025年版)、技術公示 07-2022・05-5000-24・02-5000-26、インディアン モーターサイクル 公式発表、各専門媒体の報道 / 写真提供:ポラリス
