ハーレーの庭で、ハーレーに勝った ―― インディアンの王座は9月、残り4レースで決まる

アメリカで最も熱いバイクレースは、いま「大きくて重いツアラー」で争われています。市販のバガーをベースに戦う選手権、キング オブ ザ バガーズ。2026年シーズンは、インディアン モーターサイクルにとって特別な年になりました。

開幕から6レース連続で勝ち続け、ハーレーダビッドソンの本拠地ウィスコンシンでも1-2フィニッシュ。そして残り4レースを迎えた今、チャンピオン争いは「インディアンに乗る2人」の一騎打ちになっています。

決着は今月です。

そもそも「キング オブ ザ バガーズ」とは

日本ではまだ馴染みの薄いカテゴリーなので、先に説明させてください。

出発点は2020年10月、カリフォルニアのラグナセカで行われた単発の招待レースでした。フェアリングとサドルバッグを付けた重量級ツアラーでサーキットを走らせるという企画で、これが予想を超える反響を呼び、翌2021年には3ラウンドの選手権として正式なクラスになりました。

参戦できるマシンは、市販のハーレーダビッドソン ロードグライドか、市販のインディアン チャレンジャーをベースにしたものです。ツーリングフェアリングとハードサドルバッグの装着は義務。フレームは基本的にストックのまま、フェアリングも純正の見た目を保たなければなりません。車体重量には最低重量が定められ、こちらは許容差なしで厳格に管理されます。

インディアン チャレンジャー レースマシンの斜め前から。ゼッケン69、金色のオーリンズフォークとラジエーターが見える
2026年のインディアン チャレンジャー レースマシン。フェアリングは市販車の形を保つことが規則で定められている。前方に見えるのはラジエーター。写真提供:ポラリス

上の写真を見ていただくと、市販車と同じ形のヘッドライトがそのまま残り、その上にゼッケンの板とスポンサーのステッカーが並んでいます。レーサーとして最適化するなら外したい部品ですが、規則があるので外せません。この不自由さが、このカテゴリーの面白さでもあります。

そのうえで、この選手権にはもうひとつ重要な仕組みがあります。マシン間の性能を均衡させるため、戦績に応じて最低重量の変更、エアリストリクター(吸気の絞り)、エンジンの回転数の上限(レブリミット)といった調整を課すことができる、という規則です。

強すぎるマシンは、遅くされる。この前提を頭に入れて、次を読んでいただきたいと思います。

開幕から6連勝、そして「ハーレーの庭」での勝利

インディアン モーターサイクルは2026年シーズンを、バンス&ハインズ モータースポーツとの体制で戦っています。両社の複数年契約は2025年11月24日に公式発表されたもので、チームの正式名称は「J&P サイクルズ/モチュール/バンス&ハインズ ファクトリー インディアン モーターサイクル レーシング」。マシンは市販のインディアン チャレンジャーをベースに、バンス&ハインズが仕上げたレース専用車です。

このバンス&ハインズは、それまでハーレーダビッドソン側でファクトリーチームを運営していた組織です。移籍の経緯は別の記事に書きました。

関連ニュース:ヴァンス&ハインズ、ハーレーからインディアンへ

2026年シーズンを戦うインディアン チャレンジャー レースマシン(46秒・音声あり)。動画提供:ポラリス

シーズンは3月のデイトナで開幕しました。公式発表によれば、インディアンはこのデビュー戦で2レースとも1-2フィニッシュを決めています。続く4月のロードアトランタでは、ヘイデン・ギリムが2連勝し、レース2では表彰台を独占しました。

そして6月2日、公式発表の見出しはこうなりました。

インディアン モーターサイクル ファクトリー レーシングとヘイデン・ギリムが、ハーレーダビッドソンの本拠地で圧勝。ロードアメリカで両レースを制し、6レース連続無敗を継続

ロードアメリカはウィスコンシン州エルクハートレイクにあるサーキットです。ハーレーダビッドソンの本社があるミルウォーキーと同じ州、つまり「ハーレーの庭」。公式発表がわざわざその表現を使ったところに、いまのインディアンの姿勢がよく出ています。この週末、チームはバガークラスのラップレコードも更新しました。

ハーレーに200rpmが与えられた。それでも勝った

この6月の発表には、もうひとつ見逃せない一文が添えられていました。公式発表のサブ見出しです。

バンス&ハインズが製作したインディアン チャレンジャーのレースマシンは、ハーレーダビッドソン ロードグライドに有利となるルール変更にもかかわらず、優位を保った

インディアン チャレンジャー レースマシンを正面から。ゼッケン69の下に市販車と同じヘッドライト、金色のフォークの間にラジエーター
正面から。市販車と同じ形のヘッドライトの上に、ゼッケンの板が付いている。金色のフォークの間に見えるのがラジエーター。写真提供:ポラリス

では、何が変わったのか。ここは正確に書きます。

モトアメリカが2026年4月30日付で出した技術公示(Technical Bulletin 02-5000-26)に、規則2.7.4「回転数上限」の改定として明記されています。

ハーレーダビッドソン ―― 上限7,200rpm
インディアン チャレンジャー ―― 上限7,700rpm

ハーレーのエンジン回転数の上限が、それまでの7,000rpmから7,200rpmへ引き上げられました。即日発効です。

注意して読んでいただきたいのは、インディアンのエンジン回転数の上限は7,700rpmのまま、一切変更されていないという点です。良くなったのはハーレー側の条件だけで、インディアン側には何ひとつ手が付けられていません。

結果として、インディアンが持っていた700rpmの差が500rpmに縮まりました。ただし縮まっただけで、逆転はしていません。上限そのものは、依然としてインディアンのほうが500rpm高いままです。

そして、それでもインディアンは勝ちました。改定の直後に迎えたロードアメリカで両レースを制し、ラップレコードまで更新しています。

ではなぜ、そもそも回転数に差が付いているのか。エンジンの構造が違うからです。ハーレーのレースマシンはプッシュロッドで動弁するV型2気筒、インディアンのパワープラスは水冷でオーバーヘッドカム、1気筒あたり4バルブ。高い回転を使える構造と、そうでない構造を同じ土俵に乗せるために、回転数の上限を別々に定めているわけです。

モトアメリカの技術部門は、レース結果、ラップタイム、最高速度、技術的な進歩を分析してこの調整を決めています。今回は複数のラウンドで最高速度に偏りが見られたことが理由とされました。ハーレーダビッドソンのレーシングディレクター、ジェイソン・ケールも、設計の異なる2台の競争バランスを保つ取り組みを支持するという声明を出しています。

もうひとつの差 ―― 排気量では、インディアンが不利

回転数と並ぶ、もっと大きな違いがあります。排気量です。

ハーレーのレースマシンは、スクリーミンイーグルの「ミルウォーキーエイト131」パフォーマンス クレートエンジンをベースに改造したものです。131キュービックインチ、2,147cc。市販のロードグライドに標準で載るのはミルウォーキーエイト117の1,923ccですから、レース用は224cc上乗せした計算になります。純正アクセサリーの大排気量エンジンです。

クレートエンジンとは、木箱に入った状態で売られる完成品のエンジンのことです。いま載っているエンジンを改造するのではなく、丸ごと買って積み替える。スクリーミンイーグルはハーレーダビッドソンの純正アクセサリーのブランドで、部品番号が付いて販売店から注文できるカタログ商品です。

対してインディアンのレースマシンは、パワープラス112。1,834ccで、これは市販のチャレンジャーとまったく同じ排気量です。排気量の上乗せがありません。

ただし、インディアンもエンジンには手を入れています。バンス&ハインズが手を加えたパワープラスで、中身は公表されていません。規則はエンジンの内部に広い改造を認めているので、両社とも作り込んでいます。違うのは、そこに排気量を足せるかどうかです。

つまり排気量では、インディアンが313cc、19キュービックインチ分の不利を背負っています。ハーレーのほうが17%大きい計算です。その代わりに回転数の上限が500rpm高い ―― これが2026年の「バランス」の実体です。

大きな排気量と低い回転で回すハーレー、小さな排気量を高い回転で回すインディアン。どちらを有利と見るかは難しく、だからこそモトアメリカは毎シーズン数字を触っています。

もうひとつ、見ておきたいことがあります。回転数だけを見れば、いまでもインディアンのほうが500rpm高く、有利に見えます。ですが排気量では313ccの差を付けられている。そのうえで今回変更されたのは、ハーレー側の回転数だけでした。インディアンの排気量の上限も回転数の上限も、一度も変わっていません。

言い換えれば、こうです。排気量で17%の差を付けられている側が、勝ち続けている。

王座争いは、インディアン同士の一騎打ちになった

ところが、シーズン中盤から様相が変わります。追い上げてきたのは、同じチームのトロイ・ハーフォスでした。

7月のラグナセカで、ハーフォスはギリムとの差を13ポイントまで詰めます。しかし8月のミドオハイオでは、ギリムが2レースとも優勝、ハーフォスが2レースとも2位。3位に入ったのはレース1がジェームス・リスポリ、レース2がブラッドリー・スミスで、いずれもハーレーダビッドソン勢でした。

ミドオハイオを終えた時点のポイントは、ギリムが206、ハーフォスが183。差は23ポイントに開きました。3位はハーレーダビッドソンのブラッドリー・スミスで152、首位から54ポイント差です。

つまり、チャンピオン争いはインディアンに乗る2人にほぼ絞られました。しかも、同じチームの2人です。

この2人の経歴が、この争いを面白くしています。ヘイデン・ギリムは2023年のキング オブ ザ バガーズ王者で、その時のマシンはハーレーダビッドソンでした。トロイ・ハーフォスは2024年の王者で、その時からインディアンです。ハーレーで勝った男と、インディアンで勝った男が、いまは同じインディアンのチームで王座を争っている。チームにはロッコ・ランダースも加わっています。

なお2025年の王者はハーレーダビッドソンのカイル・ワイマンでした。王座は今年、ブランドをまたいで動くことになります。

決着は9月。残り4レース

2026年シーズンは全7ラウンド・14レース。ミドオハイオまでで10レースが終わり、残りは4レースです。

残る2ラウンドは、どちらも9月に組まれています。9月11日から13日のサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(テキサス州)、そして9月25日から27日のニュージャージー・モータースポーツパークが最終戦です。

23ポイント差で残り4レース、優勝1回が25ポイント。数字の上では、まだ何も決まっていません。3位のブラッドリー・スミスも54ポイント差ですから、最大100ポイントが残っている計算では逆転の可能性が消えたわけではありません。それでも現実的な見方をすれば、これはインディアンに乗る2人の争いです。

この布陣を組んだ人物

ここで一人、名前を挙げておきたい人物がいます。2026年2月にインディアン モーターサイクルのCEOに就任した、マイク・ケネディです。

インディアンは2026年2月1日、ポラリスから分離して独立しました。投資会社キャロルウッドによる買収で、125年の歴史のなかで4度目の独立企業化です。

その新体制を率いるケネディの経歴が、少し変わっています。

ケネディはハーレーダビッドソンに26年在籍しました。米国と英国で幹部職を務め、1998年から2004年にかけてはパーツ&アクセサリー事業の急成長を主導。2010年から2017年には副社長兼マネージングディレクター(アメリカ地域)として、北米とブラジルの販売店800店を統括しています。

そして、ここが一番の見どころです。バンス&ハインズが2019年に公表した経歴紹介に、こう書かれています。

2003年、ハーレーダビッドソンのスクリーミンイーグル・レーシング プログラムの運営者としてバンス&ハインズを起用した

つまりケネディは、ハーレーのファクトリーレース運営をバンス&ハインズに任せた当事者です。2003年のことでした。

その後ケネディは2017年にハーレーを離れ、2019年から2023年まで、そのバンス&ハインズの社長兼CEOを務めます。就任が発表されたとき、創業者のテリー・バンスはこう言いました。

1年かけて履歴書を探しても、この仕事にマイクほどふさわしい人間は見つからないだろう

さらに販売店56店舗を展開するランブルオン(現ライドナウ)のCEOを2023年11月から務め、そして2026年2月、インディアンのトップに就きました。

ハーレーで26年、バンス&ハインズのトップ、そして販売店ネットワークの経営。いまインディアンが戦っている場所を、そのまま並べたような経歴です。そして2003年に自分がハーレーへ招いたバンス&ハインズが、いまはインディアン側でハーレーと戦っています。

念のため書いておきますが、「2026年のバンス&ハインズとの契約はケネディが動かしたものだ」という公式発表はありません。複数年契約の発表は2025年11月24日で、独立とケネディのCEO就任は2026年2月です。ただ、この経歴と時系列が並んでいるという事実は、記録しておきたいと思います。

就任後のケネディの言葉を、ひとつ引いておきます。私たちのような販売店にとって、これは重い一言です。

我々の成績表は、販売店の健全性だ

レースの結果が、なぜ店頭の話になるのか

インディアン チャレンジャー レースマシンの側面。チェーン駆動とバンス&ハインズのエキゾーストが見える
側面から見ると駆動がチェーンになっている。市販のチャレンジャーはベルト駆動なので、ここは競技用に変えられた部分。写真提供:ポラリス

レースマシンは、市販車そのものではありません。バンス&ハインズが手を入れた専用車です。上の写真の後輪あたりを見ると、駆動がチェーンになっています。市販のチャレンジャーはベルト駆動ですから、ここは競技用に変えられた部分です。サスペンションもオーリンズ。買ってきたチャレンジャーで同じタイムが出るわけではない、という点は正直に書いておきます。

それでも、ベースになっているのは市販のインディアン チャレンジャーです。1,834cc(112キュービックインチ)の水冷V型2気筒パワープラス、1気筒あたり4バルブのオーバーヘッドカム、アルミフレーム、そして車体側に固定されたフェアリング。この基本構成は、ショールームにある車両と同じ考え方でできています。

このカテゴリーの規則が「フレームはストック、フェアリングは純正の見た目」と定めているということは、勝敗を分ける土台の部分は市販車から持ち込まれているという意味でもあります。その素性が、ハーレーの本拠地で、相手に回転数の上乗せが認められた後でも勝てるところまで来ました。

インディアンは独立し、125周年を迎え、レースでは勝ち続けています。バガーというカテゴリーは、日本ではまだ馴染みが薄いかもしれません。ですが、アメリカで「大きくて重いツアラーで本気で速さを競う」文化が定着し、そこでインディアンが強いという事実は、これから日本にも降りてくる話だと考えています。

9月の残り4レース、結果が出ればまたお知らせします。

関連ニュース:ハーレーが、キング オブ ザ バガーズから退く ―― ファクトリー参戦を2026年で終える

【2026年9月15日 追記】ギリム選手が9月14日のCOTAで王座を決めました。最終戦を1戦残しての確定です。関連ニュース:ハーレーで獲り、インディアンで獲った ―― ギリム、バガーズ史上初の2メーカー制覇

事実確認の記録

この記事のうち、インディアン モーターサイクルの公式発表にもとづく内容は次のとおりです。バンス&ハインズ モータースポーツとの複数年契約(2025年11月24日発表)、デイトナでの1-2フィニッシュ(2026年3月10日発表)、ロードアトランタでの2連勝と表彰台独占(2026年4月20日発表)、ロードアメリカでの両レース制覇・6レース連続無敗・ロードグライドに有利なルール変更への言及(2026年6月2日発表)。

回転数上限の数値と改定の内容は、モトアメリカが2026年4月30日付で発行した技術公示 02-5000-26(規則2.7.4)にもとづいています。エンジンの排気量については、ハーレーダビッドソン側がスクリーミンイーグル ミルウォーキーエイト131 パフォーマンス クレートエンジンを使用していること、インディアン側がパワープラス112であることが、それぞれのメーカーおよび専門媒体の記述にもとづいています。改定の理由とジェイソン・ケールの声明は、モトアメリカの発表にもとづいています。

マイク・ケネディの経歴のうち、パーツ&アクセサリー事業(1998年から2004年)、2003年のスクリーミンイーグル・レーシングにおけるバンス&ハインズの起用、テリー・バンスの発言は、バンス&ハインズが2019年4月23日に公表した社長就任の発表にもとづいています。

一方、選手権の成立経緯と規則の内容、ラグナセカとミドオハイオの結果、チャンピオンシップのポイント、残りラウンドの日程、ハーレーダビッドソンでの在籍年数と役職の期間、ランブルオンおよびインディアンでの就任時期については、インディアン モーターサイクルの公式発表ではなく、主催者モトアメリカの発表および専門媒体の報道にもとづいています。


出典:インディアン モーターサイクル 公式発表(Indian Motorcycle Media)、バンス&ハインズ 公表資料、モトアメリカ 発表資料および技術公示 02-5000-26、各専門媒体の報道 / 写真提供:ポラリス

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